これは、世界で有数の超音波の専門家の間で、永遠のテーマであったが、近年
妊娠10週から14週程度で、胎児の首の後ろの皮下組織の厚みを計るNuchal Translucencyがスクリーニング法として確立されつつある。

しかしながら、我々一般の産科医がこれを使うを、つまり、乱用すると、患者さんに余計な心配ばかりをさせることになる。あくまで、遺伝の専門あるいは出生前診断専門の医師のもとで、解釈されるべきだ。

確定診断は、あくまで羊水穿刺による染色体検査でなければわからない。
羊水穿刺は300分の1の確立で流産がおこるので、一般的には35歳の方(ダウン症のリスクはこの年令で296分の1)で、リスクとメリットがトントンである。

むやみに、25歳の妊婦さんの胎児のNuchal Translucencyを計測して3mm以上なので、羊水穿刺を勧めたり、母体血清トリプルマーカーを勧めるという短絡的で素人産科医のようなことを我々はすべきではないのである。

ではどうすれば良いのか。35歳以上の方には、羊水穿刺というしっかりした診断法の存在と、そのメリット、デメリットのみを説明する。ご本人が十分理解した上での希望なら検査をする。35歳未満の方には、特に説明はしない。
母体血清トリプルマーカーはリスクはないが、35歳未満の妊婦さんに不必要な羊水穿刺を増加させる可能性が高いし、営利目的の業者の煽りが現在強く、検査が乱用されている印象がある。

25歳や30歳の妊婦さんがダウン症を心配して聞いてきたらどうするか?25歳で1040分の1、30歳で700分の1しかダウン症は生まれないことを説明し、羊水穿刺による流産率の方がその年齢では高いことを理解してもらうのが正しいと思う。

結論として、一般産科医はダウン症は超音波ではわからないし、また、診断しようとすべきではないのである
いつも聞かれるのだが、今日は5人の方に聞かれて、同じ事を説明していたら、だんだん疲れて嫌になってしまった。
当院では、予定日前後まで一回も内診しないので、妊婦さんが時々心配して聞いてくるのである。もちろん、子宮収縮の訴えなどにより健診中にすることももちろんある。

内診によって、

子宮口がどのくらい開いているのか?
柔らかいのか?
まだ、児頭は高いのか、少し下がってきているのか?
子宮口はまだ、後方で奥か?

こういうことがわかるのだが、児の下がり具合や子宮口の開き具合と陣痛開始がいつなのかは、全く関係ないのである

いつ陣痛が来るかはわからないが、陣痛が十分発来後、比較的進みやすいかあるいは、時間がずいぶんかかるのかは、ある程度、内診所見に相関するのである。


「わかりません。よって、頻繁な内診は意味がありません。
ただ、分娩誘発が成功しやすいかはわかります。よって、41週代や42週間近の方にはとても大切な検査なのです。」

以前の私の関連記事は以下のとおり、

http://obgyn0331.ameblo.jp/day-20041223.html



と、前回の妊娠初期に流産された方に質問された。

私はいつもこう答えている。

流産歴が0回の方は、今回の妊娠の流産率は16%
流産歴が1回ある方は、今回の妊娠の流産率は18%
流産歴が2回ある方は、今回の妊娠の流産率は25%
流産歴が3回ある方は、今回の妊娠の流産率は45%

「というデータが有名であるので、前回1回流産した方の次の流産率は
18%と、ほとんど変化しないので気にしないでくださいね。」

というと、皆さん十分納得してくれるのである。

習慣性流産として、母体の種種の検査をお勧めするのはやはり、流産を3回繰り返している方である。
理由は、このままでは次も流産する可能性が45%と、約半分は流産してしまうので、原因と対策を調べて対処する必要があるからである。

厚生労働省が今頃、妊婦の体重増加不足を問題にして、各新聞に本日記事が出た。
やはり、2500g未満の低出生体重児が増えているのである。これらの児は、出生後にいろいろ弊害が出やすい。
BMIが低めの妊婦さんは12-15kgぐらいは増えるべきなのであるが、37週の時点で、体重増加が7kg未満であると、低出生体重児の率が約20%になっているようだ。

そもそも産婦人科の指導が悪いと思う。
今時、8kg以内に抑えましょうなどと、ばかげた指導をしている遅れた施設が多い。これは肥満の人向けの指導である。普通の人はやはり、9-12kgは増えて欲しい。

私は以前、以下のように記事を書いた。


http://obgyn0331.ameblo.jp/day-20050201.html


妊娠初期の出血に関して、未だに止血剤や黄体ホルモン剤を処方する産婦人科医がいる。
確かに過去何十年の歴史で、流産予防や胎児死亡の予防に主種のホルモン剤が有効であるかもしれないという仮説の元に投与されてきたのは事実であるが、もはや、いくつかの無作為抽出試験においても効果は否定されているし、
黄体ホルモン剤の胎児への影響さえ報告されているのである。

また、初期の出血の妊婦に対して、安静や入院を無理強いする産婦人科医もいる。初期の流産の原因の70%以上は、胎児の染色体異常であるから、そのような胎児に安静が果たして効果があるのかは、甚だ疑問である。
安静の効果に関する研究は40年ぐらい前にされたものが有名であるが、結果は
効果は認めなかったというものである。
しかし、常識で考えて、安静が子宮内の胎児や母体の子宮収縮に少なくとも
悪影響は無いはずである。どのような状態の妊婦に安静が効果あるのかは、今もって根拠はなく、我々は一方的に妊婦に入院安静や自宅安静を指示するのではなく、今の妊婦の生活状況と妊婦自身の好みを考慮に入れて、選択肢を提示してあげなくてはならないと思う。
近年、ずいぶん話題になっている。日本でも同様である。

昔は、女性はこの症状があってもあまり訴えなかったらしいが、寿命の延長と、QOLの重要性の高まりと共に大きなテーマとなった。

簡単に言うと、尿失禁、便失禁は分娩後、1-3ヶ月はよくあり、その後改善か消失することが多いが、消えない人もいて将来に渡ってこれに悩むことになる。帝王切開後の人には、これがほとんど無いのである。


今、欧米では、婦人科の中でも骨盤底臓器の専門医(子宮脱、尿失禁専門)が脚光をあびているが、日本は確実に米国の10年あとを追っているので、今後、注目されるに違いない。

明確な証拠により、無効または有害であるとわかったケアで、未だによく行われている慣習について、また、考えてみた。

陣痛、または破水入院のほとんどの妊婦さんに、私自身、大学病院時代や勤務医時代は気軽に浣腸のオーダーをナースに出していたものだが、現在ではルーチンに全例でやるような処置ではないとされている。
施設によっては、肛門に座薬を入れ便をそくす事によって、陣痛を規則的にしかつ、分娩時に便まみれにならないようにと、一石二鳥を期待してのものであった。おまけに、会陰部の剃毛の処置まで全例にやっていたのである。

これは、日本のみならず、世界的に行われていたらしいが、今や過去の事実となりつつある。
しかし、印象では、ルーチンでやっている施設は、まだ多いのではないか。
やってはいけないというものではなく、効果がない。そして、羞恥心などもあり、そういう意味で全員にやるには有害なケアという意味であろう。

今日は外来がお休みでうれしいな。暇なのでちょっと考えてみた。

帰省分娩って、今住んでいる地域で妊婦が健診を受けていて、後期に実家に帰省してその地域の産婦人科に移って健診を受けまた、そこで出産することだ。

妊婦にとっては、いい点は、母親がいて知り合いも多く何とも心強い。そして、特に初産の場合、いろいろ上げ膳据え膳チヤホヤ状態になることもできる。
悪い点は、依存心ができてしまうこと。そして、実母のかなり偏った実技指導や経験に基づいた考えが妊婦に染み付いてしまうことだ。これは一見いい面もあるが、弊害の方が多いと思っている。例えば、母乳の確立には、実母の「足りないから、ミルクをどんどん足しなさい」というアドバイスは、不利に働くことがある。
また、産院が変わることは、管理方針もかわる事が多く、すこし戸惑うこともあるかもしれない。従来の産婦人科から、私のところに帰省すると、皆一瞬戸惑うことは間違いない。あと、最も大切なことは情報がうまく伝わらない、病状把握に時間がかかることであろう。帰省するなら、早目が安全である。


では、産院側にとって、帰省分娩はどうだろう。
健診のみで、後日他院に行ってしまう妊婦に、従来の産婦人科はあっさりした対応をするらしい。中には、冷たい対応をする所もあるという。
私にすれば、これは間違っているとしか言いようが無い。バカな医者である
。なぜなら、ご存知のように、患者は実家で出産後、また、その地域に帰ってきてそこに住むのであるから、お母さん方の噂や評判話で「あそこは冷たい。」となってしまうのだ。
でも、気持ちはわからなくもない。帰省で、他院へ移る方に十分な時間をさくより、自院で出産してくれる妊婦さんによくしてあげたいというのは当然と言えば当然である。
患者さん側に立って考えれば、健診料を払っているのだから一緒だろうというのが言い分だ。しかし、この健診料は、ある意味分娩費用あってこその低く抑えた料金かもしれない。通院中になにかあった時でも24時間対応するというのが、かかりつけの産婦人科の役割とすれば、健診のみの妊婦さんは、その権利を受けるデポジットを支払っていないことになるのかもしれない

しかし、帰省はすぐれたシステムなので、うまく利用すればいいと思う。心無い産婦人科医の対応にやっぱりと思うかもしれないが、そのあたりの事情を少しでも理解して通院していれば傷つくことも少ないのではないだろうか。
予定日前後でよくある訴えである。気持ちはわかるが、分娩誘発をするのには
まず、初産か経産婦か、そして、子宮口の成熟度(Bishop Score)を考慮しなければいけない。

子宮口がまだ未熟であれば、むやみな誘発分娩は、帝王切開率を上昇させる。

いくつかのしっかりした研究で、巨大児の誘発分娩は、そのまま自然に陣痛や破水を待った分娩に比べ、母児になんのメリットもない事が証明されている。

また、「よく動けば、はやく生まれますよね。」とか、「床磨きをすれば、安産になりますか?」という質問も多いが、そんな事実は全くないのである

だいたい、それが事実ならば、世界中でそれが実行されているはずであるし、
そういう研究が行われているはずなのである。
いわば、長年の生活の知恵や言い伝えは、一概に否定はしないが、むやみに信じるのも考えものである。